ヤエンリール考!

ヤエンシーズン開幕にあたり、今回は「ヤエンリール」についての考え方をまとめてみました。これはあくまで私の釣法を前提にしたものなので、異論・反論は当然あるでしょう。釣具に対する考え方は人それぞれなので、一つの意見としてご笑覧頂くださいませ!

さて、過去にレバーブレーキ・リール(以降LBリール)に行き着いたことは書いておりますので、ここではなぜ私には最適であったかを掘り下げたいと思います。そのためには、まずLBリールの特性を理解しなければなりません。

LBリールはグレのフカセ釣りに特化して、日本独自のリールとしてシマノから誕生しました。今はフロント・ドラグが装備されていますが、初期のものにはありません。その理由は、まさにレバーブレーキがドラグの変わりであったからです。これはマルチプライヤー・リール(以降マルチプライヤー)のダイレクト・ドライブ方式と同じで、レバーを使う発想は自転車メーカーのシマノならではだと思います。

リールはマルチプライヤーとスピニング・リール(以降スピニング)がありますが、それぞれの特性に応じて、使用されるジャンルが決まってきます。ここでは細かいことは書きませんが、決定的な違いは、仕掛けを投げたときにマルチプライヤーはスプールが逆転するのに対し、スピニングはスプールからラインだけが放出されること。この特性の違いから、スピニングにおいてダイレクト・ドライブ方式を採用するとなると、ベールの回転を何らかの方法でコントロールする必要がありました。

ではなぜ日本でLBリールが生まれたのでしょう。
この答えはグレという魚がいて、それを磯から釣る人が多かったことに尽きると思います。
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「ABU 1750A」
↑当時の日本代理店は「エビスフィッシング」


グレ釣りではその手返しからスピニングを使うわけですが、どうしてもドラグ機能では克服できない問題がありました。それはラインを出されて根ズレで切られるくらいなら、ラインを出さないで切られる方がまし。このような判断をしばしば求められ、自分の意思で瞬時に選択できるリールが必要だったからです。

マルチプライヤーのダイレクト・ドライブ方式は、「ABU 1750A」が有名です。このリールの特徴を述べると、ハンドルとスプールはギヤで直結されているため、スプールが逆転するとハンドルも逆転します。もちろんキャストのときはクラッチを抜くことが可能ですが、ドラグがないのでギヤをつないだ状態でも容易にスプールが逆転します。この逆転によるバックラッシュを防止するのに使われているのがクリック機能です。

魚とのやりとりでライン・テンションをコントロールするときは、キャスティングのサミングと同じようにスプールを親指で直接押さえたり、ハンドルの保持や回す力でコントロールします。一般的な使い分けは、瞬発的な走りをかわすときはハンドルから手を離してスプールで。走らない魚や寄せてくるときはハンドルでコントロールします。

もはやルアーで「1750A」を使う人はいませんが、現在でも使用している代表的な例が、湖のマスのムーチングです。餌にワカサギなどのベイトフィッシュを使うので、飲み込むまで少し時間が掛かる。餌の食い込みは竿の調子によるところが大きいですが、魚によっては咥えたまま移動するものもいます。このときクリックが効いているのでバックラッシュせず、一定のテンションでラインを放出できるのがポイント。また待ちの釣りなので、音が出るのも当たりがあったことに気がつく点で重要な要素です。
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「MILLIONAIRE GS-1000C & ST-1000」
↑クリック機能があるミリオネア。1750Aと同じように芦ノ湖のムーチングで使用


そして掛かってからは、細いハリスで巨大なレインボーやブラウンを相手にするわけです。ドラグは「糸巻き量」や出ている「ライン抵抗」で滑り出しの負荷が変化してしまうため、自分の意思で思い通りにラインをリリースできる、ダイレクト・ドライブ方式が最適となるわけです。

では話をLBリールに戻しましょう。ダイレクト・ドライブ方式と逆転時のクリック。これを併せ持つスピニングが、まさに「'02BB-X EV3000アオリイカ」です。ヤエンでLBリールが一般的に使われるようになったきっかけは、このモデルであることは疑いようもありません。

LBリールによるテンション調整は、「強く握る」、「瞬間的に緩める」という操作は得意とするところですが、緩いテンションを一定してかけることは、人間工学的に難しい構造になっています。自転車のブレーキではそれが可能なのに、リールではなぜ難しいのでしょう。その答えは二つ。

まず一つ目はレバーブレーキを握っているのが人差し指1本に対して、自転車のブレーキは親指を除く指4本であること。そして二つ目は自転車のハンドルは竿のように、ブレーキ操作をする方向に引き込まれたりすることがないからです。
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「Ambassadeur 5500DA」
↑1750Aと違ってダイレクト・ドライブでありながらハンドル基部のドラグ・ノブで逆転時の負荷を調整可能。5000Dまではクリック機能があったが5500DAにはない


これをもう少し具体的に書けば、竿が伸されれば嫌でも人差し指以外の指に力が入る。当然ながらブレーキを握る人差し指にも力が入ります。この状態でレバーブレーキを握る人差し指を緩めるわけですから、ドラグのように一定のテンションでラインをリリースするのは非常に難しい。というよりもできません。

磯釣りのどんな名手でもラインを出すときに、断続的に竿がお辞儀する理由はこれです。竿が伸される→レバーを緩めて竿のタメを作る→レバーを握るのでまた伸される→レバーを緩めて竿のタメを作る。言い換えれば、レバーブレーキはラインを出さないことを前提にしており、竿が伸されたときタメを作るためにレバーを操作しているのです。

次にヤエンで求められるリールの操作に目を向けてみましょう。ヤエンと他の釣りで決定的に違うことは、餌にハリが付いていないこと。したがってヤエンが到達する前にアジを離されてしまったら、その時点で終わりです。そこでもっとも優先することは、アオリにアジを離されることなくヤエンを到達させることになります。

ヤエンが近づくと、大抵はアオリは逆噴射して抵抗します。これはヤエンの重さに違和感を感じたり、視覚的に近寄ってくるヤエンから逃げるためであったりしますが、このときの対処方法はラインをスムーズに放出するしかありません。ハリが付いていないのですから、過度にテンションを掛ければ必ずアジを離します。
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「Ambassadeur 1500C」
↑アンバサダーの最小モデル


ヤエンを入れていなければ、アジを離されても大抵は再び食ってきます。しかしヤエンを入れてしまうと、アジを離されるとテンションを失って沈みます。ここでヤエンの根掛かりを恐れず、そのまま待つ人もいるでしょう。しかしヤエンを入れる前のような確率では再び食ってはきませんし、着低したヤエンを引きずることになるので、高い確率で根掛かりします。

ヤエンを送っている間は、アオリが抵抗しない限り寄せることになります。これはラインに一定のテンションを掛けないと、ヤエンの重さでラインがたわんで進まなくなるからです。そして竿を曲げてラインをしっかり張れば、抵抗しないアオリはいくら大型でも少しづつ寄ってきます。表現を変えれば、ヤエンがスムーズに進むようにラインをハリハリにすれば、否応でも寄せてくることになるわけです。

したがってヤエンを送る間は「巻く行為」と「ラインを放出する行為」、すなわち「握る行為」と「離す行為」を瞬時に切り替えなければなりません。これを自分の意思で選択できるのがダイレクト・ドライブ方式、すなわちLBリールとなるわけです。

ではメーカーのヤエン専用リールでは、同じシチュエーションでどのような操作になるのでしょうか?どの機種も後部にあるクラッチの切り替えで、ドラグをフリーにできるようになっています。しかし私の経験では、ヤエンを送っているときに瞬時にクラッチを切り替えるのでは間に合わないことが多い。
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「Ambassadeur 7000」
↑クリック機能が付いているのがレイクトローリングに使われる理由


そこで私はクラッチを入れた状態にしておいて、寄せるときは緩めたドラグのスプールを押さえてポンピングしながらラインを巻いていました。これであれば急にアオリが逆噴射したときは、スプールを押さえている手を離せばよいわけです。この操作方法で離されることは、かなり少なくなりました。しかし最後まで残るのが、リールの操作性とラインの滑り出しの問題です。

操作性は竿を持つ反対の手が、スプールを押さえたりリールを巻いたり。掛かってからはクラッチを入れたり、ドラッグを調整したりと違う作業が多いことでイメージできるでしょう。滑り出しの問題については、ドラグの方がクリックよりも接触面積が大きいことから、最大摩擦力と動摩擦力の「差」が大きいことに起因します。これにより必要以上にドラグをユルユルに設定することになるわけです。

スピニングはスプールからラインが出る方向と、実際にラインが出る方向は、ベールのアームローラーを介して約90℃の角度にあります。アームローラーにベアリングが使われていない機種は論外ですが、ベアリングが使われていてもアームローラーを介してスプールが逆転するので、ここでも摩擦抵抗による力の伝達ロスがあります。

LBリールは力の作用点であるベールそのものが逆転するので、この点では力の伝達ロスは少ない。しかし忘れてならないのは、LBリールはベールもハンドルも連れ回りします。当然ベールとハンドルには重さがあるので、より小さい力でラインが出るという点では、アームローラーの摩擦抵抗は微々たるものなので、専用リールの方に分があります。
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「BB-X XT3000」
↑レバー、ハンドル、スプールを交換して音だし加工


しかしラインの滑り出しが安定しているという点では、ドラグよりもクリックの方が優れているのは前述のとおり。回転を安定させるために、ダブルハンドルにするのもまさにこれが理由です。スピニングの宿命である糸ヨレも、ベール自体が逆転する方がスプールが逆転するよりも軽微であることも大きなポイントでしょう。

よくLBリールでクリック機能なしでヤエンに使おうとする人がいますが、これはかなり難しいと思います。その理由は前述のとおり、レバーブレーキの操作は「握る」か「離す」かの二者択一に近いからです。したがってアオリが逆噴射するときは、レバーを離すのが一番確実な対処方法です。このときクリックがなければどうなるでしょうか?

当然バックラッシュします。バックラッシュしないように、レバーで一定のテンションを掛けようと考えるかもしれません。しかし前述したように、それだけ繊細な操作を繰り返し行うことは難しい。少しでも強く握り過ぎれば、アオリはテンションの変化を感じて、大抵の場合はアジを離してしまいます。こうなるとシマノであればゼロフケテンションを使うしかありません。

ダイワがヤエン専用に開発した「バトルゲーム2000LBQD」の説明を読むと、この肝心のクリックがありません。その代わり置き竿で待つときのために、ドラッグを瞬時に開放できるクイックドラグを装備しています。これは私がLBリールを使う最大の理由、すなわちヤエンを送っているときのライン放出対応は、不安定なレバー操作やドラグ操作に頼るということになります。
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「BB-X EV3000アオリイカ & EV3000」
↑レバー、ハンドル、スプールを交換し、上位機種の「XT」と同じベアリング数にチューンアップ


ヤエンが掛かってしまえば、アオリはグレと違って根に潜ったりすることありません。したがってこの段階になれば、ドラグによるやりとりでまったく問題ありません。「バトルゲーム2000LBQD」がシングルハンドルであるのも不思議ですが、おそらくこのリールの開発コンセプトは、私とは違うものなのでしょう。「ヤエン考!」で書いたように、釣法が違えば最良の道具仕立ても異なるという典型的な例だと思います。

長くなったのでまとめましょう。

ヤエンでLBリールが本領を発揮するのは、ヤエンを送るときです。竿を大きく曲げてラインを張り、アオリが寄ってくればラインを回収する。また竿を大きく曲げるを繰り返します。そしてヤエンが近づいてアオリが逆噴射したら、瞬時にレバーを離してクリックのテンションでラインを放出。走りをしのいだら、またレバーを握って竿を大きく曲げる。この一連の動作を、「スムーズ」かつ「一定のテンション」で行えるのがLBリールを使う最大のメリットです。

さて長々とLBリールをヤエンで使うメリットを書いてきましたが、もちろん欠点もあります。それはクリックという非常にシンプルなものでテンションをコントロールするため、押さえているバネ圧調整が全てであり、調整幅が非常に狭いということです。しかも軽過ぎればバックラッシュするし、重過ぎればアオリが離します。したがってバックラッシュしない程度で、軽めに仕上げるのがベストですが、この基準はかなり曖昧なものになります。
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「BB-X HYPER FORCE Mg3000DHG & Mg3000D」
↑ハンドル、スプールを交換して音だし加工


しかしバックラッシュは手持ちであれば防げることが多いので、置き竿のときだけゼロフケテンションを併用するのも一考です。当たりがあったら手持ちにして、ゼロフケテンションを切ればよいわけです。もしテンションが強すぎて置き竿で離されても、ヤエンを入れてなければ、高い確率で再び食ってくることは前述のとおりです。

また裏技ではありますが、ラインに巻き癖があるとバックラッシュは起こりにくいもの。そこで先糸だけフロロにして、メーンラインに巻き癖が付きやすいナイロンや、張りのないPEラインを使うのも有効です。クリックのバネ圧だけでバックラッシュを調整しきれない人は、試してみる価値があります。

最後にこの釣りでもっとも重要なことを書きましょう。それはヤエンの掛け率は、ヤエンを入れる前のアオリの状態でほぼ決まるということ。言い換えれば、このベストな状態を作るのが、掛け率を揚げるもっとも重要なテクニックです。私は「アオリの調教」と表現しますが、これを自在にできるのもLBリールならでは。そして優れているヤエンは、そのベストな範囲を広げてくれるものなのです。

現在のヤエンリールついての考えはこんな感じです。なおリール改造についての質問にはお答えしませんので、事前にお断りしておきます。

by scott1091 | 2012-11-20 20:41 | Technique | Comments(5)

Commented by 山本 at 2012-12-07 11:21 x
http://item.rakuten.co.jp/point/4996774162296/

こんなリールもありますよ。

うしろのダイヤルで、レバーブレーキのテンションを調整できます。
私は、このリールを使ってます。
逆転する時、クリック音が鳴ってダブルハンドルだと完璧なんですが。
Commented by 山本 at 2012-12-07 12:33 x
アドレスをクリックしてもページに進みませんね。

タカミヤ レバー リールで検索してみて下さい。
Commented by scott1091 at 2012-12-08 08:07
山本さん、はじめまして。

エキサイトブログはコメント欄にリンク機能がないので、入力して頂いたURLをコピペして拝見させて頂きました。「釣具のポイント」を利用したことがないのですが、オリジナル商品が沢山あるのですね。テンション・ブレーキがダイヤル式なので、微調整が利きそうですし価格もリーズナブル。

情報提供ありがとうございました。
Commented by はっし at 2012-12-12 18:01 x
tomoさん
はじめまして、はっしと申します。


ちょうど私もヤエンリール選考の記事を下書きしていたところで
この記事を 興味深く拝見させていただきました。


以前、ヤエンを始めたばかりの頃
『ヤエンに向いたロッドってどんなの?』の記事にあった
メガドライはこの記事を見て購入した物でした。
(恐ろしくて使っていませんが・・・)


話は戻りますがアブのリールにこんな機能があったのなんて驚きです。
ベイトだから向いてないなんて言われませんね。
また、XTやEVをこんなにお持ちの方がいらっしゃるとは思いませんでした。
非常に良い機種ですので私もXTを愛用していますがもう一台追加しようかな!?(笑)
私の中のヤエンリール選考では 結局これが一番ヤエンに向いたリールだ!!と位置付けれないでいます。
(それで良いのだ!とも思っていますが・・・)
大変勉強になりました良い記事をありがとうございました。(^o^)
Commented by scott1091 at 2012-12-13 23:35
はっしさん、はじめまして!

「EV」や「XT」はクリックを追加するだけで音出しができますが、その肝心の「クリックツメ」や「ツメバネ」がもうメーカー在庫がないとか・・・。貴ブログは以前から拝見しており、パーツの代用方法などアイデア満載で楽しませて頂いてます!また一連の騒動で、改造方法を公開に踏み切った経緯も拝見しておりました。

『ヤエンに向いたロッドってどんなの?』の記事は今でもキーワード検索で訪問される人が多いので、近々「続編」をアップする予定です。それとはっしさんの最新記事にあるヤエンケースですが、やっぱり皆さん苦労されていますよね!特に私はダブルヤエンなので、はっしさんの記事にもある正方形に近いケースでないとヤエンが変形してしまいます。

ヤエンを収納できないと釣りにも行けないので、現在使っているのは円筒形のケースです。構造的に全てのヤエン取り出すことになりますが、内面に強度があるのではっしさんの記事にあるようなトラブルは回避できています。