「60㌧カーボン使用」って、どういう意味ですか?

これからフナヤ・オリジナルのインプレッションを書くにあたり、使用されている素材、すなわち炭素繊維について、素人なりに整理したいと思います。業界関係者の方も当ブログを見て頂いていると思いますので、お気づきの点などあればご指摘頂ければ幸甚です。よろしくお願い致します。

さて先日とある方から、メジャーのカタログにはカーボンの弾性率が表示されていないので、フナヤ・オリジナルと比較ができないとのご指摘がありました。確かにフナヤ・オリジナルは使用しているカーボン弾性率をホームページ上に表示しておりますね!

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そこで簡単に竿作りの工程をご説明致します。まずロッドメーカーは、炭素繊維糸を一定方向に並べて、樹脂でシート状に固めた「プリプレグ(以降カーボンシート)」を素材メーカーから仕入れます。素材メーカーは東レ、東邦テナックス(帝人子会社)、三菱レイヨンが世界市場の約7割を占めていることはよく知られているところですね。

そのカーボンシートに使用される炭素繊維糸の「引張弾性率」が、竿の素材でよく使われるカーボン弾性率です。単位は「kgf/m㎡」や「GPa」で表示されます。「1,000kg=1ton」となりますので、「引張弾性率60,000kgf/m㎡」の炭素繊維糸のシートで作られた竿を、「60㌧カーボン使用」と表現します。
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ここまではかなり単純ですが、カーボンシートは使われている炭素繊維糸の「引張弾性率」だけでは比較できないもう一つの要素があります。それはシートに成型するときに使用する樹脂、すなわちレジンの含有量です。鮎竿で理想とする「より軽く=より硬く」を求めると、当然ながら使用する炭素繊維糸は高弾性のものを使用し、レジンは極力少なくするのが理想となるわけです。(←炭素繊維糸の弾性率が高くなるほど、レジンを減らすのに技術が必要となります。)

ここまで読むと、「な~んだ、要は超高弾性(*1)カーボンシートで竿を作れば最高の竿ができるのね~」とお思いでしょう。しかし竿作りはそんなに単純なものではありません。先に述べたとおり、カーボンシートは一定方向に炭素繊維糸が並んでいるので、シートの向きを組み合わせないと一方向にしか強度がでないのです。

(*1)60㌧以上のカーボンが「超高弾性」に分類されます
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竿作りでは各セクションごとに、マンドレルという芯金にカーボンシートを何層かに分けて巻き、加圧しながらテーピングしてオーブンで加熱します。竿の表面に残っている横筋はこのテーピングの跡。重ねられたカーボンシートは、シートにもともと含浸されている熱硬化性樹脂により接着されます。

実はこのカーボンシートの組み合わせが非常に大切です。竿の開発は、①テーパーデザイン、②使用するカーボン素材、③カーボンシートの組み合わせでしのぎを削ることになります。他社からテーパーデザインを盗むのは実測すれば簡単ですが、使っているカーボン素材とシートの組み合わせは、企業秘密になりえるわけです。
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カーボンシートは同じメーカーのものであれば、弾性率が高くなるほど単価が上がります。したがって同じ調子を、カーボンシートの組み合わせでコストダウンすることも、企業にとっては重要な開発要素になります。

ちなみに市販されているカーボンシートの弾性率は、PAN系(*2)では東レの65㌧が最高ですが、PITCH系(*3)の三菱樹脂には80㌧以上が存在します。しかしレジン量が同一でないことや特性があるので、鮎竿を作る上で80㌧が最良という結論にはなりません。ただ弾性に幅があると、各メーカーの設計者にとっては、シートの組み合わせのバリエーションが広がることは間違いありません。例えば65㌧フルに近い調子を、60㌧+80㌧のコンポジットで作るなどですね。


(*2)アクリル樹脂を繊維化し、特殊な熱処理工程を経て作られる炭素繊維
(*3)石炭や石油産業から生成されるピッチを繊維化し、特殊な熱処理工程を経て作られる炭素繊維

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竿作りの工程は、ほとんど人手による作業ばかり。したがって竿の原価は、①工場での人件費+設備の減価償却費(工賃)と、②カーボン素材の価格でほぼ決まり。メジャーはこれに③営業費(営業担当者の人件費、広告宣伝費、販促費etc.)、④本社共通費の配賦などのコストが上乗せされることになります。

鮎竿は軽く、強くを追求してきた結果、使い勝手(軽量・高感度)と折損は表裏一体なのはご存知のとおり。その理由が「超高弾性低レジン」の多用にあるわけです。同じ人が使えば、メジャーでも高い竿ほど折れる確率が高くなります。竿は折れるものと考える人と、商品である限り折れるものを売ってはいけないと考える人。竿の取り扱いも人によって様々。メーカーはその狭間で、価格帯別にバランスをとっているのが実情だと思います。

これらを踏まえて、インプレッションを読んで頂けたら幸甚です。
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↑いずれも限界を見誤ってしまった結果。超高弾性の竿は使い手の資質も求められますemoticon-0107-sweating.gif

by scott1091 | 2008-10-20 21:01 | フナヤオリジナル | Comments(2)

Commented by マルパパ at 2008-10-21 13:57 x
私でも良くわかる説明で ありがたく読ませて頂きました
超高弾性低レジン私には無理ですので おぼろげだったものが絞られてきました
Commented by scott1091 at 2008-10-21 21:32
マルパパさん、素人説明なのでお恥ずかしい限りです。
ご興味を待たれていた「急瀬ECO」のインプレッション、近々アップ致します。ご笑覧くださいませ!